「演武のお手伝いを募集します。カレーライスの人数報告をしますので参加可能な方はご連絡ください」
カレーライスを餌に召集された地域こどもプラザ演武会でのお手伝い。召集に応じた指導員は総勢7名。
出張お手伝いのN村さんは、本人も知らぬ間に師範同士で参加の密約が交わされていたらしい。
どんな味のカレーかな。学校給食みたいなカレーかな。
貴重な日曜日を捧げた後のカレーはきっと、格別だろうな。
道場でのリハーサルを終え会場である湯島小学校へ移動する事、徒歩1分。
3階体育館に到着し舞台を目にするとドキドキが加速する。
口数が多くなる子にフリーズする子、あくびのあの子には別の緊張が走る。
「正面に、礼!」
指揮官である久美子師範に引っ張られ、気持ちのこもった子供達の「押忍」を耳にした時、心配は期待へと変化し始める。
全員での基本稽古から選抜メンバーによる5本蹴り。
そして7本蹴りへと順調に進んだが、メインを飾るはずだった馬場大和の連続5回跳び廻し蹴りは謎のお預けを食らう。
決して忘れた訳ではない。
忘れられたわけではない、はずだ。
続くは型の部。
入門したての白帯キッズを含む太極その1チームは某師範の号令かけ忘れ風サプライズを受け若干多めの迷子を発生させながらも、泉師範代のヒソヒソ号令により微笑ましく完遂した。
続く平安その1&平安その2チームは色帯の貫禄を見せつけ、型の部を締めくくる突きの型チームは積み重ねた稽古年数を十分に発揮し、会場を魅了した。
組手の部では皆存分に技を出し合い、お預け中であった連続跳び廻し蹴りも無事披露された。
初挑戦を多数含む希望者達が一列に並び、端から順に次々と快音を響かせるはずの試し割りでは、開始早々の鈍い音にどよめきが起こる。
割れない板は動揺を呼び、出番を控える子供達に恐怖の表情が浮かびはじめたその時、ヒソヒソ号令のあの人が、今度は大音量で呼びかけた。
「これは盛り上がりますよね!」
凍りかけた会場は一瞬にして盛り上がり、再度挑戦する小さな空手家に熱い視線が注がれた。
待望の快音により、試し割りの快進撃は大きな拍手と共に続いていった。
誰もがホッとしかけたその時、またもや試練は訪れた。
蹴りがダメなら突きで行け。
やっぱり膝だ。
ああ板よ、そろそろ割れてくれ。
大貫佑翔(無級)と持ち手である内藤直菜(21歳)の即席コンビは10回目のチャレンジで快音を響かせ、惜しみない拍手を送られた。
トリを飾るのは湯島道場代表馬場大和と、小石川道場代表三村優花だ。
会場に到着してから割り当てられた四方割りを「押忍」の一言で受け入れ、瞬時に技を決定した二人からは、空手を通した精神の強さを感じることができた。
頑固な板にも果敢に挑戦し見事に四方割りを決めた二人の姿は、持ち手の一人として誇りを感じた。
全員による締めの正拳突きを終えた時、気付けば会場が一つになっていた。
挑戦は楽ではない。
挑戦は恐怖を伴い、時に無力を思い知らされる。
しかし挑戦に食らいつき逃げずに戦い続ければ、我々は変化を手に入れるだろう。
積極的な変化を手に入れた時、未来はきっと今より明るい。
メインイベントのカレータイムが時間の都合によりキャンセルとなった事を知ったのは演武当日だったが、私はめげない。
共にショックを味わった21歳の持ち手さん。
リハーサルでお腹空いていたし、カレー食べたかったよね。
「そんなに食べたかったの?」
マッスル指導員の拓さんはそうつぶやいたが、そりゃあもう食べたかったんだよ。
来年にはまた3センチ大きくなっているであろう拓さんだけど、他の指導員もなぜか皆大きいけれど、チーム東京お茶の水の成長期はまだ始まったばかりだ。
師範として演武内容を企画し準備を重ねた姉久美子、それに見事に応えた子供達、応援し見守った親御さんたち、指導員としてサポートに徹した仲間達。良い1日をありがとう。
来年はきっと、カレーライスを。押忍(島倉美佳)
※東京お茶の支部情報はこちらよりご確認下さい。