体重無差別で真の空手日本一を決める全日本大会の開催が目前に迫ってきた。
選手や関係者の健康と安全のため、無観客で行なわれることとなった今大会。それでもフルコン最高峰の選手たちが、新時代の王座を狙い全国からエントリーした。
いまだ新型コロナウイルスが収束しない中、緑健児代表は、この特別なイベントにどのような意義を見出しているのだろうか。
――注目されていた全日本大会が、いよいよ迫ってきました。
「まずは大会が開催できることをうれしく思います。コロナ禍においても稽古を続けてきた選手たちがいますから、主催者側としては彼らが輝ける場を用意し、モチベーションを維持させたいという思いが強くありました。他競技も少しずつ再開されてきている中、健康と安全を第一に考え、フルコンタクト空手の伝統ある大会を開催する方法をさまざまな角度から検討した末、今回は無観客での開催という運びとなりました。通常の大会のように会場での応援はできませんが、有料ライブ配信や地上波放送もありますので、ぜひそれぞれの地元で先生や先輩を応援してほしいと思います」
――これまでにない形式での大会となりましたが、男子65名、女子37名がエントリーしました。
「これだけのメンバーが出場してくれたことに感謝したいですし、このような環境下でもしっかり準備してきた選手たちに敬意を表したいと思います。開催告知は約3ヵ月前でしたが、そこから稽古をスタートさせても間に合わなかったでしょう。つまり大会があるかどうかわからない中で1年間コツコツ準備を進めてきた選手たちが、今回エントリーしていると思います。職場や学校などの事情で、出場したくても見送らざるを得なかった選手もいると思いますが、出場を決めた選手たちの意識の高さには感心します」
――「試練の時こそ、選手としての差がつく」と代表は常々おっしゃっていました。
「はい。人間、明確な目標があればがんばれますが、そうでない時にがんばれるかどうかが本当の力だと思います。だからこそ、今大会で男女それぞれ誰がチャンピオンになるか、非常に興味深いですし、いつも以上に注目しています」
――自分が試される時期だったと考えてもいいのでしょうか。
「私はそう思っています。いつでも闘えるように刀を磨いておくのが武道家ですし、いつもと同じ稽古や生活ができないという条件は全員一緒だったわけですからね。それを乗り越えて優勝した選手は不動の自信を手に入れることができると思いますし、来年以降の大会でも必ず好成績を残せる選手になるでしょう。また、これからどんな逆境をも乗り越えていける武道家になっていくと確信しています。そのくらいの価値のある大会になるのではないでしょうか」
――そのようなご意見を伺うと、また試合の見方も変わってきますね。非常に楽しみになってきました。
「第12回世界大会を制した島本雄二選手は年間を通して同じレベルの稽古を積んでいたそうですし、道場長となった今も当時と変わらない稽古をしていると話していました。また、南原朱里選手も今回は出場しませんが、大会前と同様の稽古を日々重ねています。さすがは世界の頂点に立った両チャンピオンだと思います。これからの選手たちにも、その姿勢を見習ってほしいですね」
――緊急事態宣言中の4~5月頃は先が見えず、選手たちにとって最もつらい時期だったと思います。
「外に出ることもできず、自宅で努力を続けるしかありませんでしたからね。ただ、それも考え方ひとつで、めったにできない経験をしたことが選手人生にプラスになったとポジティブにとらえてほしいと思います。その経験を経て大会に挑戦したことは、きっと一生の財産になると思いますし、必ず次につながるはずです」
――どうしてもネガティブに考えてしまいがちですが、そういうとらえ方もできるのですね。緊急事態宣言明けのインタビューで伺った「すべてをプラスに変えていく前向きな気持ちこそ武道精神」という言葉にも非常に刺激を受けました。
「逆境こそチャンス。そう思うことで道は開けると思います。実際、この状況で立ち上がることができた選手は、コロナが収束した時にはもっと密度の濃い稽古ができるはずです。孤独の中でいろいろなことを考えたり、工夫したりしたことで新たな能力が身につき、平常時ではできない成長をした可能性もあるでしょう」
――代表も第5回世界大会の前に城南支部を離れ、故郷の奄美大島で孤独な稽古を経験された時期がありましたよね。
「はい。その時期は考える力を伸ばすチャンスと思っていました。大山(倍達)総裁も『頭が良くないとチャンピオンにはなれない』とおっしゃっていましたから、頭を使っていろいろな工夫も取り入れました。選手が大勢いた城南支部では充実した稽古ができていましたし、師範の指導もあって恵まれた環境でしたが、孤独の中で考えながら行なう稽古にも多くの学びがありました。大会1ヵ月前に城南支部に戻って仕上げを行なった時も、自分の稽古は間違っていなかったと実感したことを覚えています。ですから今大会の出場選手たちも、それぞれ貴重な経験を積んできているはずです。それは決して無駄にはならないでしょう」
――孤独な稽古の中では、たとえば新たな気づきや発見のようなものがあるのでしょうか。
「私はそうでした。大山総裁は『極意は自分でつかむもの』ともおっしゃっていたのですが、自分に合った技は自分で気づき、体験し、実戦で磨き上げて本物になっていくと思います。もちろん指導者のアドバイスも大事ですが、最終的には自分のひらめきや感覚が極意をつかむ転機になると感じています。その点においても、自粛期間は決してマイナスにはならなかったと思いますね」
――世界大会の翌年は波乱が起こりやすいと言われますが、今回は男女とも世界チャンピオンが出場していないこともあり、優勝争いはさらに混沌としています。そんな中、諸流派選手の多さも目立ちますね。
「当然ながら意識の高い選手ばかりだと思いますし、各流派の大会で優勝や上位入賞という成績を収めている選手も多いので、新極真の選手たちにとって脅威になるでしょう。男子は王座死守、女子は王座奪還という新極真の目標達成への道のりも険しくなると思いますが、それを成し遂げてくれることを期待しています」
――世界大会代表メンバーをはじめトップレベルの選手たちが揃っているので、要所でフルコン界の未来を占う対戦も実現しそうですね。
「特殊な状況下での大会ではありますが、例年と比べても遜色のない名選手たちが名を連ねています。現在のフルコン界の真の無差別級チャンピオンを決める大会と言っても過言ではないでしょう。男子は世界大会3位の加藤大喜選手を筆頭に、同じく7位の江口雄智選手、入来建武選手、島本一二三選手が4隅のシードに入りました。女子は一昨年の全日本を制した久保田千尋選手をトップシードとして、世界大会出場メンバーである菊川結衣選手、藤原桃萌選手、加藤小也香選手が各ブロックに分かれました。男女それぞれ4人のシード選手が中心となってトーナメントが展開されていくと思いますが、新時代のスタートということで波乱も続出するかもしれませんね」
――無観客ということで、会場のムードがいつもと違った独特のものになることも予想されます。
「そうですね。応援席からの声援がなくなりますが、そのぶん静寂の中で繰り出される突きや蹴りの音などがしっかり聞こえて、真剣勝負の緊張感が強調されるかもしれません」
――たしかに武道的な荘厳な雰囲気になりそうですね。
「初めての試みですから、そうした新鮮な空気感も含め、ファンの皆様には大会を楽しんでいただき、選手たちの闘いから何かを感じていただきたいと思います。また、もしかすると選手たちにとっても、このような大会は最初で最後の経験になるかもしれません。ぜひ悔いの残らない闘いをしてほしいですね」
――いろいろな面で、空手界の歴史に刻まれる大会になりそうです。
「最も記憶に残る大会になる可能性もありますよね。先ほどもお話ししたように、目の前に提示された状況をポジティブにとらえ、自分を律して稽古を続け、心技体を高めてきた選手がいい結果を生み出すと思います。そしてトーナメントを制した選手は、忘れられないチャンピオンになるでしょう。エントリーしてくれた全選手にエールを送るとともに、その健闘を祈りたいと思います」
Interview /本島燈家 Photo /長谷川拓司
東日本大震災復興支援チャリティー/骨髄バンクチャリティ-
第52回オ-プント-ナメント全日本空手道選手権大会
開催日 : 2020年11月21日(土)・22日(日)
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※選手には無料チケットを配布します。セコンドへのチケット配布はありません。
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