入来建武世界チャンピオンに、全日本大会を占ってもらった。組手男子はWFKO世界王者のアントン・ジマレフをはじめとする外国人選手が大挙して参戦し、「過去一番レベルが高い可能性がある」と入来チャンピオンに言わしめるほどのメンバーが揃った。誰が勝っても初優勝という大混戦
―― 組手男子のトーナメントをご覧になって、どんな印象ですか。
「時代の移り変わりを感じますね。諸流派の選手も外国人選手も本気で狙いに来ている感じがします。外国人選手もこれだけ出てきますし、全日本大会として見たら、過去一番レベルが高い可能性もあると思います」
―― 前回大会優勝者の多田成慶選手は不在です。
「それもすごく大きな影響を与えると思います。彼がいればもちろん中心だったと思うんですけど、チャンピオン不在となるとみんな勢いに乗りますし、先が読めないですよね」
―― この大会で勝った選手が新エースと言っていいですか。
「いいと思います。去年よりさらにレベルが高い外国人選手も出てきている中で、新極真の日本人選手が優勝したら、エースとしての実力があるという証明になると思います」
―― トップシードには、19歳の遠田竜司選手が入りました。
「8月の全九州大会も見ましたけど、世界大会の時から少しずつスタイルを変えてきていますよね。前までは若さの勢いを利用してガンガン攻めていたのを、少しシフトチェンジして試合を組み立てているなと最近は感じます。世界大会からの2年間、スタイルを変えている最中はどうしても負けたりすることもあったと思うんですけど、全九州を見る限りでは新たなスタイルを確立してきているのかなと思います。大雑把な技が減って、ピンポイントで狙いを定めて効かせる攻撃が増えた印象です」
―― 長丁場のトーナメントを闘う上で、以前のようにガンガン攻めるだけではダメだと考えたと。
「おそらくそうだと思います。若さと勢いだけでは、世界大会で勝つのはやっぱり厳しいですよ。もちろんそれで勝てる時もあるんですけど、勝てない時もあるんです。安定して勝ち続けることが大事なので、今のようなスタイルは世界大会を見据えたら必要になってくる部分ですよね」
―― ゼッケン1を背負った岡田侑己選手は第13回世界大会以降、安定した強さを見せています。
「ようやく彼本来のよさが出てきたかなと思います。昔から強い選手だったんですけど、世界大会くらいから自分の組手を確立してきた印象です。いつもご家族やまわりの方々がチームで岡田選手をサポートしている印象なので、それも岡田選手の力になっていると思います」
―― 足を使ったテクニカルな組手が、岡田選手の持ち味ですね。
「ポジション取りとか技のタイミングとか、技術的には有力選手の中でもずば抜けていると思います。重量級の体格であれだけ速く動けますし、優勝できる実力は十分あると思います。ただ、去年の遠田選手との準決勝では足の指の骨折も影響したのか、失速してしまいました。トーナメントにケガはつきものですから、たとえケガをしても勝てる状態に仕上げておかなければいけないんです」
―― 逆に言えば、ケガをした状態でも全日本大会を勝てるくらいでなければ世界は獲れないと。
「その通りです。もちろん全日本大会も日本最高峰の大会でプレッシャーはあるんですけど、世界大会はまったく違う空気感があります。僕自身も、世界大会の圧倒的な緊張感やプレッシャーを背負えるだけの器をつくらなければいけないと思っていました。そういう状態を想定してやっていくことが、世界大会へつながる道になっていくと思います」
―― 渡辺和志選手は初めて4隅のシードに入りました。軽重量級の世界チャンピオンが無差別級で通用するかがポイントになりますね。
「WFKOで優勝してから明らかに自信がついて、関東合同稽古を見ていても以前とは見違えるくらい、すごく動きがいいです」
―― WFKOでの渡辺選手の試合を観て、どんなことを感じましたか。
「今まではふとした時にスキを突かれることもあったと思うんですけど、そういった部分が少なくなっていて、最後まであきらめない、気迫のこもった闘いを見せてくれたと思います」
―― 渡辺選手の全日本大会最高成績はベスト16ですが、今回はもっと上を狙えそうですか。
「そうですね。実力的には十分なので、変なケガをしないとか、心が乱されないようにするとか、そういう部分だけですよね。ベスト16、ベスト8になってくると、実力的にそこまでの差はないんです。今の渡辺選手は心身ともに充実していてすごく強いので、楽しみですね」
―― Cブロックのシードにはベテランの前田勝汰選手が入りました。前回大会では4位に入賞しています。
「JFKO国際大会でも優勝していますし、やっぱり強いですね。32歳ですけど、昔を彷彿させるような試合を見せています。もちろん、昔に比べたら運動量は少し落ちていると思いますけど、経験と技術でカバーしていますよね。今回、このメンバーの中に入っても勝ち上がっていく可能性はあると思います」
――10代の頃から、基本的なファイトスタイルは変わらないですよね。
「そうですね。ステップワークを使いながらというのは変わらないんですけど、以前よりムダな攻撃が減った気がします。洗練されているというか、しっかりポイントを定めて効かせにいっている感じがします」
―― その他の注目選手は?
「まずは塚本慶次郎選手ですね。まだ19歳ですけど少しずつ体重も増えてきて(82㎏)、これが90㎏くらいになっても今のような動きができると、本当に驚異的な存在になると思います。前回大会ベスト8の髙橋耕介選手も同じ世代ですけど、この世代の選手たちは少年部の頃から切磋琢磨してきた経験もありますし、本当に強いですね。塚本選手と髙橋選手は、何としても去年以上の結果が欲しいところですよね」
―― 他に気になる選手はいますか。
「渡辺優作選手ですね。世界大会以降の負けを、自分の糧にできているかがポイントだと思います。心をぶれさせない。最後まであきらめない。どうやったら勝てるのかという道をずっと探り続けることができれば、チャンスはあると思います」
―― 海外勢の筆頭格としては、WFKO中量級チャンピオンのアントン・ジマレフ選手が挙げられますね。
「ジマレフ選手は強いです。とくに突きが強いですね。技の形がすごく綺麗というわけではないんですけど、それを覆す身体能力の高さがあるので、日本にとって脅威の存在になると思います。ジマレフ選手の山には𠮷澤穂高もいますし、髙橋佑汰選手、多田大祐選手もいますし、エゴール・クルタソフ選手も22歳で194㎝、85㎏と、若くて大きいですよね。どこのブロックにも言えることですけど、誰が勝ち上がってきても大きなダメージが残ると思います。だから全員にチャンスがあるんです」
―― 入来さんが第48回全日本大会で初優勝した時、全日本を獲るためには何が必要だと感じましたか。
「あの時は深く考えることもなく、自信と勢いだけでした。なぜだか負けるわけがない、誰が来ても大丈夫という絶対的な自信があったんです。世界大会で準優勝した1年後だったので、その時のいい感触が残っていて、この感じでいけば優勝できると思っていました。怖いもの知らずの21歳だったので、ある意味、調子に乗って天狗になっていた部分がいいほうに作用したのかなと思います」
―― そう考えると、若い世代は勢いで優勝する可能性もありますね。
「あります。若い世代は、自ら波に乗りにいくのも大事だと思います。もちろん謙虚なのは大事なことですけど、いい意味で自ら調子に乗って、自分がどういう波に乗っているかを感じて、しっかりその波に乗り続けることが大事だと思います」
―― 出場する選手たちに期待することは何ですか。
「この大会で優勝するということは、世界チャンピオンまで続く道だということを自覚して闘ってほしいなと思います。全日本大会には代々つないできた伝統があるので、誰がそれを継ぐという責任感を一番持っているか。自分の中に『世界チャンピオンへの道』を持っている選手が、全日本大会で優勝すると思います」
第57回全日本空手道選手権大会
【開催日】2025年10月18(土)、19(日) 両日 9時開場、10時試合開始
【会場】東京体育館(JR総武線千駄ケ谷駅、大江戸線国立競技場駅)
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