この度は、昇段審査の機会を与えていただきましてありがとうございました。
これまで、ご指導いただきました先生方、一緒に稽古をしていただきました道場生の皆様方、ありがとうございます。
昇段審査を受けるに当たって、こんなことを思い出していました。
私が極真空手と出会ったのは、今から47年前です。
「地上最強のカラテ」という映画が作られ、極真空手は「ケンカ空手」と呼ばれていた頃でした。
運動神経も根性もなかった私は、そんな極真空手とは全く無縁だったのですが、アルバイト先で出会い、なぜかとてもかわいがってくれた先輩が、極真空手の黒帯だったのです。
しかも、この先輩は道場へは通わず、通信教育で黒帯を取ったとのことでした。
そして、私に「簡単だからやってみなよ」と言ってきたのです。
何も知らない私は、言われたとおりに通信教育に申込み、道着を買って、テキストの写真を見ながら一生懸命真似をしてみました。
当たり前のことですが、運動神経ゼロの人間が、写真を見て説明を読んだだけで習得できるわけがありません。
テキスト3冊終えたところで、「あーこれは無理だ」ということにやっと気付いたのでした。
ここで全て諦めれば良かったのですが、なぜかアルバイト先の先輩の影響が大きく、無謀にも近所の道場を探してそこに入門してしまったのです。
今でもはっきりと覚えているのは、稽古に参加した初日、基本稽古の途中で貧血を起こして休ませてもらったことです。
今思えば、基本稽古自体がかなりきつかったことに加えて、稽古初日で緊張して、体中ガチガチに力が入っていたんだと思います。
それでも稽古には通い続けました。
時にはケンカ空手の名の通り実践喧嘩必勝法を教わったり、合宿に参加したりして、強くなったような気になっていました。
とは言ってもそんなに簡単に強くなれるはずはありません。
稽古はきつく、組手では毎回ボコボコにされ、いつの間にか道場から足が遠ざかっていきました。
その後、空手とは全く縁のない生活をしていましたが、極真空手に再会したのは、それから40年近く経ってからでした。
生活の環境が変わり、時間の余裕が出来た頃でした。
気がつくと自宅の近所に新極真空手の道場がありました。
極真空手からは全く遠ざかっていたため、極真会館と新極真会の区別もついていませんでした。
ただ単に極真空手が懐かしいと言う気持ちで、極真空手2度目の入門をしました。
そしてそれから8年が経過しました。
今度は以前のように、途中で投げ出すことなく今日まで続けることが出来ています。
それまでの間全く運動をしていなかった自分にとっては、もちろん稽古は以前同様厳しいもので、最初の1年間で8キロほど体重が落ちるほどでした。
若い頃と違って熟年になってから習い始めた空手では、いろいろなことを考えるようになりました。
「空手とは?」、「武道とは?」、そして、なんのために空手の稽古をしているのか。もちろん人それぞれ、一人一人違った目的があってそれぞれの目標に向かって空手に向き合えばいいと思いますが、私は自分自身のこととして思うようになったのは、空手の稽古に通うことは、あくまでも護身のためであり、喧嘩に強くなったり、人殺しのための稽古をしているのではない、ということです。
また、体の大きい人、小さい人、力の強い人、弱い人、男、女、年齢などなど考えると、他の人と自分を比べて強い弱いを論じることが全く意味のないことに思えてきました。
ある武道家が「一番強い技は?」の問いに対して「それは自分を殺しに来た相手と友達になること」と答えたという有名な話があります。
現代武道は、殺人のためのもの、他人を傷つけるためのものであってはいけないと思います。
他人を打ち負かすことではなく、自分と対峙し、自身の中にある弱さに「勝つ」ということが大事なことなのだと思っています。
年を重ねると、体も心もあちこちが衰えていくことを実感してきます。
しかし、少しでもそれに抗えるように、「昨日できたことは今日もできる、今日できることは明日もできる。」うまくいけば今日の自分は昨日の自分よりも少しだけ進化している、くらいの気持ちで、楽して休みたいという思いを抑えつけながら、日々の稽古を出来るだけ休まず続けています。
休めばマイナス、続ければ最低でもプラマイゼロです。
そして、休まず長く続けていくためにもう一つ重要なことは、「楽しむ」ということです。
もちろん稽古は辛く厳しいものですが、そこは気持ちの持ち方一つ、マラソンでゴールしたときの爽快感と同じで、稽古で汗を流した後のすがすがしい気持ちをいつも忘れずに、これからも楽しんで稽古に向かい合っていきたいです。
今日まで空手を続けてこられて、今回初段の審査を受けさせていただくことが出来たのも、丁寧にご指導いただいた先生方、道場生の皆様のお陰です。
この年になって、黒帯だなんて自分でも驚いています。
今まで何かをやり遂げたということなどなにもなく、いろいろなことに手を出しては中途半端で投げ出してしまった自分にとって、今までの人生の中で1番の勲章だと思っています。
この年になるまでこれほど一生懸命に何かに打ち込んだことはありませんでした。
最後になりますが、毎晩夕方になると稽古に出かけてしまって、家のことを一切顧みなかったことを許してくれた(諦められているのかもしれませんが)家族にも感謝しています。
黒帯取得からが本当の修行スタートだと思い、今後も体が動く限り精進して参りたいと思います。
今後ともよろしくご指導お願い致します。
ありがとうございました。
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