令和8年6月14日
私にとって、忘れることのできない一日となりました。
新極真会の昇段審査の日。
そして同時に、父の94歳の誕生日でもありました。
55歳になった私が十人組手に挑み、94歳になった父が元気に誕生日を迎えている。
今振り返ると、何とも不思議で、そしてありがたい一日だったと思います。
今回、私は新極真会の昇段審査に挑み、無事に合格することができました。
しかし、この話は単なる昇段審査の合格体験記ではありません。
私自身にとっては、人とのご縁や恩義、そして礼節の大切さを改めて教えられた出来事でした。
そもそも、なぜ55歳になって初段を目指したのか。
そのきっかけは内藤師範でした。
「実力で初段を取りなさい。」
長年のお付き合いの中で、内藤師範はそう勧めてくださいました。
私は学生時代、故・真樹日佐夫先生からご指導をいただいた経験があります。
武道の技術だけではなく、人としての在り方や礼節について、多くを学ばせていただきました。
今回、内藤師範からその言葉をいただいた時、私には不思議な感覚がありました。
もちろん、これは私自身の心の中の話です。
けれども、私には、真樹先生が内藤師範を通じて背中を押してくださっているように感じられたのです。
「やるなら今だぞ。」
そんな声が聞こえたような気がしました。
振り返れば、私の人生には幼い頃から武道がありました。
父は居合と剣道をたしなんでいました。
私が6歳を迎えた時、父は剣道の道着と竹刀を与えてくれました。
そして自宅の庭を道場代わりにして、私に武道の手ほどきをしてくれました。
勿論、最初に教わったのは技ではありません。
蹲踞(そんきょ)でした。
礼をし、蹲踞をし、相手と向き合う。
いま思えば、私が武道から最初に学んだのは、勝ち方ではなく、人を敬うことだったのかも知れません。
もっとも今回、受審までの道のりは決して平坦ではありませんでした。
正直に申し上げれば、不安はたくさんありました。
やりたくなかったわけではありません。
むしろその逆です。
私は空手を始めた時から、黒帯に憧れていました。
一度は初段を取りたい。
黒帯を締めたい。
白い道着に黒帯を巻いてみたい。
その思いは、ずっと持ち続けていました。
しかし現実には、4年ぶりに国会へ復帰させていただいたばかりでした。
選挙に集中し、政治活動に集中する中で、それまで続けていたトレーニングも思うようにできなくなっていました。
実際、当初4月に予定していた昇段審査も2か月延期していただきました。
本当にやり切れるのか。
十人組手を完遂できるのか。
その不安は常にありました。
それでも挑戦することを決めたのは、内藤師範の存在があったからです。
内藤師範は本当に熱心に声を掛け続けてくださいました。
そのお気持ちが、めちゃくちゃ嬉しかった。
一人の男として、その思いに応えたいと思いました。
長年にわたり応援してくださった、師範の期待に応えたい。
その気持ちは大きかったと思います。
そして、もう一つ。
仲間の存在でした。
私のために時間を作り、胸を貸してくださる有段者の皆様。
そのお気持ちに、応えたい。
そう思いました。
昇段審査の最後は、十人組手でした。
最初の相手は、プロ総合格闘技の世界で活躍する三井俊希選手。
開始早々、息が上がりました。
正直、一人目からしんどかった。
しかし、後ろに下がるわけにはいきませんでした。
前へ出る。
倒れるなら前へ。
その気持ちだけで、向き合いました。
途中一人目と八人目で、後ろ回し蹴りも出ました。
自分でも少し驚きました。
まだ身体は動く。
まだ挑戦できる。
そう思えた瞬間でした。
そして、その間ずっと内藤師範が私のそばで声を掛け続けてくださいました。
まるで、セコンドのように。
励まし、叱咤し、導いてくださいました。
その中で何度も耳にした言葉があります。
「礼に始まり、礼に終わる。」
一人ひとりの相手に礼を尽くす。
組手が終われば、感謝を込めて礼をする。
そして次の相手と向き合う。
目の前の一人に集中する。
一つひとつの勝負を、丁寧に積み重ねる。
そのことを内藤師範は組手の最中に、繰り返し私に教えてくださいました。
私はその言葉に素直に従いました。
苦しい時ほど、余計なことを考えない。
目の前の相手に礼を尽くす。
そして感謝を忘れない。
その繰り返しでした。
気がつけば五人目が終わり、十人目が終わっていました。
後から振り返ると、これは空手だけの話ではありません。
政治もそうです。
人生もそうです。
遠くばかり見ていると、人は心が折れます。
しかし、目の前の一人を大切にする。
目の前の仕事を、丁寧に行う。
礼節と感謝を忘れず、一歩ずつ積み重ねる。
その先にしか、本当の結果はないのだと思います。
私は政治家として、三度の落選を経験しています。
平成15年衆議院初当選だったので、順調にいけば今頃9期目だったかもしれません。
しかし、現実は違いました。
それでも立ち上がってきました。
倒れても立ち上がる。
もう一度前を向く。
もう一度歩き出す。
それは、今回の十人組手とも重なる部分がありました。
相手に負けるな、ではありません。
自分自身に、負けるな。
そのことを、改めて教えられた気がします。
実は、この日は父の94歳の誕生日でもありました。
ただ私は、昇段審査のことを事前には父へ伝えませんでした。
心配を掛けたくなかったからです。
また、自分自身も余計な思いを持たず、審査に集中したかったという気持ちもありました。
そして審査を終えた帰り道、私は父へ電話をしました。
目的は誕生日のお祝いです。
「誕生日おめでとう。」
そう伝えるための電話でした。
その会話の流れの中で、実は今日、昇段審査を受けていたこと、そして無事に合格したことを父へ報告しました。
車中では、皆がスピーカーフォンで会話を聞いていました。
そこで内藤師範に電話を代わると、父はこう言いました。
「息子にあまり危ないことをさせないでください。」
私はそのやり取りを隣で聞いていました。
思わず微笑んでしまいました。
55歳になっても、父にとって私は息子なのです。
しかし、その言葉を聞いて私が感じたのは甘えではありません。
感謝でした。
父と母が育ててくれた身体があるからこそ、私は今も挑戦することができる。
そう思うと、感謝の気持ちしかありませんでした。
黒帯はゴールではありません。
むしろ新たなスタートです。
55歳。
まだまだ道半ばです。
これからも礼を忘れず。
感謝を忘れず。
そして学ぶことをやめずに、歩いていきたいと思います。
結びにあたり、学生時代にご指導いただき、武道の精神と礼節の大切さを教えてくださった故・真樹日佐夫先生の御霊に、初段合格と黒帯取得のご報告を心より申し上げたいと思います。
また、この挑戦の機会を与えてくださり、最後まで温かく、そして厳しくご指導くださった内藤隆富師範に深甚なる敬意と感謝を申し上げます。
さらに、激励のお言葉をいただいた緑健児 新極真会代表理事・JFKO理事長をはじめ、新極真会の皆様、内藤道場の皆様、そして胸を貸してくださった有段者の皆様に改めて心より御礼申し上げます。
皆様のますますのご健勝、ご多幸、そしてご繁栄、ご発展を心よりお祈り申し上げます。
ありがとうございました。押忍