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世界王者・島本雄二が語る 武道家が目指すべき真の強さ

2021.09.14
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年末に開催される全日本大会やドリームフェスティバル募集が始まった。それぞれの階級で日本一を目指す選手たちにとって最大の目標であり憧れの存在である世界王者・島本雄二。その島本が自身が目指す武道家像、最強の強さについて語った。

――2連覇を達成した第12回世界大会から約2年が経過しました。指導者として道場を開設した直後、新型コロナウイルスが蔓延するという苦境に直面されましたが、その後の状況はいかがでしょうか。
「振り返ると、とても濃い2年間だったと感じています。大きな目標だった世界大会連覇を達成し、次のステップとして道場を立ち上げたんですが、本当にその直後にコロナの感染拡大がはじまりました。それでもようやくいい兆しが見えてきて、現在は道場も盛り上がってきたところです。大会も少しずつ開催されるようになり、子どもたちも目標を持てるようになってきていますので、今は選手育成に全力を注いでいます」

――この9月からは、埼玉県戸田市の道場でも指導することになりましたね。
「もともと総本部直営だった道場(ジェクサー・フィットネスクラブ戸田公園)を引き継がせていただくことになりました。期待に応えられるように、しっかりがんばっていきたいと思います。『空手で心身ともに強い子を育てる』というのが島本道場の基本テーマなので、それを練馬道場とともに実践していきたいですね。子どもたちが大人になった時、『島本先生に空手を学んで良かった』と思ってもらえるように」

――道場開設とともに広島から上京されたわけですが、地元を離れた生活で何か意識的な変化はありましたか。
「まず慣れ親しんだ大濱道場から独立させていただいたことで、自覚と責任感がより強くなりました。また、東京にはたくさんの支部道場があるので、多くの師範方とお話しをする機会が増えたというのも大きな変化です。関東合同強化稽古も毎週行なわれていますし、指導者としての学びや引き出しも増えた気がします」

――とはいえ、まだコロナ前とまったく同じ稽古ができる状況ではないですよね。
「そうですね。ですから、指導者がいかに目標を設定してあげるかが重要だと思っています。このように大会が少ない状況は初めてでしたが、それが逆に自分にとってはプラスだったなと思いますね」

――と言いますと?
「道場の稽古体系の中に、わかりやすい目標を立てることを考えるきっかけになりました。たとえば、幼稚園の子は審査もすぐに受けられる段階ではないので、『達成シート』というものを作成し、挨拶ができたり、不動立ちができたりしたらシールを貼っていくシステムをつくりました。この小さな達成感が日々のモチベーションにつながっていると感じます。こうした取り組みは今までしてこなかったので、自分の中では非常に新鮮です。大会の延期や中止がなければ、このような発想は生まれなかったかもしれません」

――試合がない状況でも目標を定めて修行を続けていけるのは武道の良さですよね。こういう時代だからこそ、武道の意義が見直されていると思います。
「おっしゃる通りだと思います。修行の一環として試合は大切なものですが、それがすべてではないですし、ゴールでもありません。緑(健児)代表も常々おっしゃいますが、試合があろうとなかろうと日頃から心身を研ぎ続けるのが武道家の在り方だと思います。道場はそうした自己鍛錬や自己向上をするための場だということを、このコロナ禍の中であらためて認識しました」

――道場長自身も、ずっと武道としての空手修行を重視されてきました。その意志が道場生にも伝承されているということですね。
「はい。それは広島支部で大濱(博幸)師範に教えていただいたことであり、子どもの頃から最も大切に考えてきたことですから、ブレることはありません。試合前だからこういう稽古をする、試合前だから追い込むというのはスポーツの考え方であって、武道家は365日ずっと同じように自己鍛錬を続けるものです。24時間、毎日毎日、薄皮を重ねるように自己を高めていく。試合はあくまでもその成果を試す場であると考えています。自分にとって新極真空手はそういう武道ですし、子どもたちに対しても自分が空手をやっている意味をよく考えるようにと話しています。たとえばイジメなどに屈しない強さを磨くことは大切だとしても、ケンカが強くなったことを人に見せたり自慢したりする必要はない。それが強さだと勘違いして欲しくないんです」

――では、強さとはどういうものと伝えているのでしょうか。
「究極の強さは『やさしさ』だと思います。子どもたちによく言っているのは、試合で勝って喜んでいるうちは三流、俺は強いと威張っているのは二流、
一流は強さを表に出さないものだよと。いつも明るく、やさしくて、『この人、本当に強いの?』と思われるような人が最強だと思うよと」

――自信があればそうなれると。
「そうです。本当に強くなれば、それを見せびらかそうとは思わなくなります。街で目が合ってケンカになるといったことも聞きますが、べつに目を合わせる必要はないんです。目が合っても自分からそらせるくらいの強さが必要だと思います」

――自制心を持ち、おだやかな心境でいられることが強さの重要な要素なんですね。
「そう思います。イライラしたり、何かをアピールしたりしたくなるというのは、自信のなさの表われではないでしょうか。ですから、ケンカになるというのはお互いに原因があるんだよという話をよくします。試合においても、武道家は勝ってガッツポーズをしたりしませんよね。相手の前で自分の強さを誇るような態度を取るというのは思いやりに欠けているからです」

――そうした強さを磨くために必要なことは何でしょうか。
「やはり一瞬一瞬の積み重ねしかないと思います。稽古では一つの突きも、一つの蹴りも手を抜かない。そして稽古だけでなく、私生活も含めて、つねに本質的な強さを追求する。それを継続するのは簡単ではありませんが、その地道な作業が結局は最短距離になると思います」

――広島支部の教えである「基本稽古でも10回突いたら10人が倒れる突きを打たなければいけない」ということですね。
「はい。また、今年に入ってドリームフェスティバルなどの大会も再開されましたが、我々がセコンドにつくことができないので、選手たちはすべて自分で考えて闘わなければいけない状況でした。小さい子にとっては大変だったかもしれませんが、それも武道の心構えを学ぶという点では重要な経験だったと思います。道場には先生や仲間がいますが、闘う時は自分だけの力で生き延びなければいけないわけですから。そのような制限のある大会も自分を高めてくれるものとポジティブにとらえてほしいと伝えました」

――生き延びる力を養う――それはまさに武道の原点とも言えますね。
「試合にはルールがありますが、ルールの中でしか闘えなかったら空手ではないと自分たちは教えられてきました。基本稽古にも顔面への突きや金的攻撃が含まれているように、空手家はつねに実戦を想定しなければいけないですし、いざという時に自分自身や大切な人の身を守れなかったら武道をやっている意味はありません。競技者が増えてスポーツとして成長していくことも素晴らしいですが、スポーツの基準の中でしか闘えなくなってしまってはいけないと思います」

――現代のスポーツ界、とくに格闘競技においては、公平性を名目に体重無差別という概念も消えつつあります。
「そうですね。だからこそ新極真の世界大会や全日本大会といった無差別の大会は重要な意味を持つのではないかと思います。体格差のある闘いは厳しいですが、その中で勝つために試行錯誤や工夫が生まれますし、ポジティブでなければ不公平を受け入れることはできないので思考も自ずと前向きになっていきます。そういうものが子どもの時から染みついていれば、大人になってからも多少の困難には自分で立ち向かっていけるのではないかと思います」

――なるほど。実社会は必ずしも公平・平等ではないですからね。すべてが完璧に公平でなければ受け付けないという思考では、逆に被害者意識ばかりが積み重なっていくかもしれない。
「そうなると成長するためのエネルギーも失われてしまいますよね。ですから、武道精神を学ぶことはすべての世代の人にとってプラスになると思います。武道発祥の地である日本でもそれが失われつつあるところもあるので、自分たちはその部分を消さずに伝えていきたいと思っています。信念を曲げず、武道精神をしっかり伝えていければ、競技で世界チャンピオンになるような選手も必ず育てられると思っているので」

――それは道場長ご自身が体現していますからね。今夏はオリンピック・パラリンピックが57年ぶりに日本で開催されましたが、どのような印象を持ちましたか。
「競技を問わず、やはりスポーツは人々に元気や感動を与える素晴らしいものだと感じました。空手も自分たちのフルコンタクトとは違う競技でしたが、脱力からの一瞬の力強さなどは通じる部分があると思いました。その一方で、フルコンタクト空手の魅力、新極真の世界大会や世界ウエイト制といったフルコンタクトの大会の素晴らしさを再認識したという面もあります」

――JFKO(全日本フルコンタクト空手道連盟)がフルコンタクト空手としてオリンピック競技を目指す一方で、新極真の世界大会は武道の最高峰のステージとしてサッカーのワールドカップのような特別な存在になっていくかもしれませんね。
「そうなればいいですね。無差別で勝つというのは本当に難しいことですが、だからこそやりがいがありますし、その頂点に立つことには大きな価値があります。現代ではプロ格闘技の世界に憧れる子もいるかもしれませんが、武道空手の最高峰はもっとすごいということを伝えていきたいですね」

――たしかに、ファイトマネーで成り立つプロの闘いと武道では方向性が明確に違いますね。
「プロの世界はそういうビジネス色が濃いものであると認識しています。一方で武道はまったく価値観の違う世界です。そしてコロナ禍においても新極真の道場に新規入会者が増えていたり、親御さんが子どもたちを安心して預けてくださったりするのも、武道精神や礼儀礼節を学び、それを通じて心身ともに自己を高めていけると感じていただいているからだと思います。そうした道場生や保護者の皆さんの思いには最大限応えていきたいですし、自分自身も謙虚に向上を目指し続けたいと思います。優勝したからと言って傲慢になるのではなく、自分はまだまだ未熟と思うからこそ、もっと強くなる余地があると思いますから」

――世界チャンピオンになっても、さらに強さを求めていくと。
「もちろんです。力が衰えたと感じたら、道場生や周囲の人たちはがっかりすると思いますから。チャンピオンたる者、現役が終わったとしてもつねに目標とされるような空手家でいなければいけないと思います。また、大会に出場しなくなったとしても、武道家としての強さにはまだまだ上があるとも思っています。ですから、これからもいろいろな技や体の使い方を探求し、想像を超えたような境地を目指したいですね」

――生涯にわたって学び続けていけるのも武道の大きな魅力ですよね。
「道場にもいろいろな年代や職業の人たちが集まりますから、人間力を高めていくための貴重な学びを得る機会もたくさんあります。自分の道場には50~60代の道場生も多いんですが、仕事では役職がついているので何かを教わる機会がなくなって刺激がないとおっしゃいます。道場では新しい刺激や学びがあって気持ちがいいし、何歳からでも向上していけるという新鮮な喜びがあると。そういう姿を見ていると自分も参考になりますし、どこまで行っても向上心を忘れてはいけないとつくづく思います」

――では最後に、年末の全日本大会やドリームフェスティバル、来年の世界ウエイト制大会やフルコン世界大会などに出場する選手たちへのメッセージをお願いできますか。
「昨日よりも今日、今日よりも明日の向上を目指して、お互いにがんばっていきましょう。コロナ禍の中、いろいろとうまくいかないこともあるかと思いますが、試合に勝つだけでなく、自己向上のために稽古に取り組みましょう。武道精神を軸として、前向きな姿勢で自分自身を磨き続ければ、試合でも必ず結果がついてきますし、人間としての成長にもつながると思います」

Photos/少路昌平


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