10月14日~15日の2日間にわたり、フルコンタクト空手最高峰のトーナメントである第13回全世界空手道選手権大会が東京体育館で開催された。ここでは初日の型に続き、男女ダブル優勝を目標に掲げた組手・日本選手団の試合を中心に、男子四回戦~決勝戦、女子準々決勝戦~決勝戦の模様をお届けする。
13th WC Result【組手最終結果】
【男子四回戦】
Aブロック:初日をほぼ無傷で勝ち上がったエヴェンタス・グザウスカス(リトアニア)と岡田侑己の一戦は、左下段廻し蹴りを積み重ねた岡田が手数、圧力ともに上回り本戦4-0で快勝。優勝候補のグザウスカスが四回戦で敗れるという大波乱で2日目が幕を開けた。初日を圧倒的な組手で勝ち上がった後藤優太は、125㎏のルスタム・アヴザロフ(カザフスタン)の圧力に手を焼いたものの、延長5-0で五回戦へと駒を進めた。連続一本で初日を突破した加藤大喜は、全ヨーロッパ大会2023重量級準優勝のアンタナス・クリバヴィシウス(リトアニア)と激突。接近戦での減点1が響き、延長0-3で惜敗した。鳥原隆司とヴァレリー・ディミトロフ(ブルガリア)の一戦は、近距離での攻防を制したヴァレリーが延長5-0で勝利した。
Bブロック:マレック・ヴォルニー(ポーランド)と澤井天心の一戦は、30㎏の体重差を活かしたヴォルニーが本戦5-0で勝利。JFKO全日本大会軽量級王者の誇りを胸に初日を突破した澤井だが、全ヨーロッパ2023軽重量級王者の牙城を崩すまでには至らなかった。続く試合ではアントン・ジマレフがカザフスタン代表の勢いを象徴するように、左上段ヒザ蹴りで亀山真に一本勝ち。福岡の雄が四回戦で姿を消した。JFKO全日本大会軽中量級の平木楓は、三回戦で大坪裕希を下したアリ・ハイデル(スウェーデン)を左下段廻し蹴りで一蹴。見事な一本勝ちを決めた。優勝候補の一角である渡辺優作はアルテム・アキメンコフ(ポーランド)を突きで圧倒し、本戦5-0で快勝。2日目も好スタートを切った。
Cブロック:マシエ・マズールを下すという大アップセットを演出した遠田竜司が四回戦でも躍動。体重の乗った突きや後ろ廻し蹴りなどで優勢に試合を進め、後迫龍輝を本戦4-0で退けた。前田勝汰は初日の試合で左前腕を骨折したためドクターストップに。リトアニアのラウリナス・ヴァイシカウスカスが不戦勝を決めた。𠮷澤穂高は長身のエドガー・セシンスキーの上からの圧力に苦しみ、延長0-3で惜敗した。全九州大会を制するなど今大会のダークホースとして注目を集めたアンジェイ・キンザースキーは、抱え込みと押しによる減点1が響き多田成慶に延長0-5で敗れた。
Dブロック:パウリウス・ジマンタス(リトアニア)と落合光星の一戦は、予想通り重量級らしい肉弾戦となった。勝負は延長戦にもつれ込み、魂の下段廻し蹴りを積み重ねた落合が延長5-0で勝利。王座死守という大願に向け大きな1勝を引き寄せた。江口雄智はキレのある突きと下段廻し蹴りでダヴィット・ムスカラゼ(ジョージア)を攻め込んだが、ムスカラゼも怒とうの突きのラッシュで迎撃。僅差ながら、ムスカラゼが延長3-0で勝利した。初戦でサラハト・ハサノフ(アゼルバイジャン)を下すという波乱を演出した金岡陽大は、四回戦では近距離を得意とする渡辺和志と対戦。ヒザ蹴りで渡辺の前進を止めたが、無尽蔵のスタミナを誇る渡辺の前に延長0-3で惜敗した。余力を残す形で初日をクリアした入来建武が、2日目午前も盤石の組手を披露。初日はあまり見せなかった下段廻し蹴りやヒザ蹴りでカロヤン・タシェフ(ブルガリア)を翻ろうし、本戦4-0で五回戦進出を決めた。
【男子五回戦】
Aブロック:グザウスカスを止めた岡田侑己と後藤優太の一戦は、昨年末の全日本大会と同様に僅差の内容に。本戦は上段前蹴りや内廻し蹴りでペースを引き寄せた後藤がやや優勢(2-0)となったが、延長戦に入ると岡田が中段突きで形勢を逆転。後藤をコート際まで追い込むなど、つねに試合を支配し、延長5-0で勝利した。老獪な技術で鳥原隆司を下し五回戦に駒を進めたヴァレリー・ディミトロフは、ここでも安定した組手を披露。近距離での突きでアンタナス・クリバヴィシウスの体力を削り、本戦5-0で勝負を決めた。
Bブロック:亀山真を一本で下し波に乗るアントン・ジマレフが、近距離戦でマレック・ヴォルニーの持ち味を消すことに成功。本戦4-0で勝利し、堂々の入賞を決めた。安定感が光る渡辺優作は、軽中量級の平木楓と比べても遜色のないスピードを披露。平木も粘りを見せたが、押しによる減点1もあり渡辺が本戦5-0で勝利した。
Cブロック:連続でアップセットを演出した遠田竜司の勢いは五回戦でも止まらず、ラウリナス・ヴァイシカウスカスを序盤から圧倒していく。左中段廻し蹴りと突きでペースを握り続け本戦4-0で快勝。初出場ながら実力で入賞を勝ち取った。長身選手との対戦が続く多田成慶は、上段系の技に細心の注意を払いつつエドガー・セシンスキーを迎撃。だがセシンスキーに距離を潰され、後半には押しで減点1を取られ劣勢に。結果、本戦0-4で涙を呑んだ。
Dブロック:パウリウス・ジマンタスとの真っ向勝負を制した落合光星が、ダヴィット・ムスカラゼ戦でも本領を発揮。重い下段廻し蹴りと中段突きでムスカラゼを押し込み、本戦4-0で勝負を決めた。優勝候補筆頭の入来建武は距離を取る渡辺和志を巧みに追いかけ、右の下段廻し蹴りでダメージを与えることに成功。渡辺の減点1もあり、入来が本戦5-0でベスト8進出を決めた。
【男子準々決勝戦】
今大会でMVP級の活躍を見せた岡田侑己に対し、ヴァレリー・ディミトロフが中段前蹴りで技有りを奪取。年齢を感じさせない盤石の組手で、4年前に続いて自身のブロックを突破した。
Bブロックはアントン・ジマレフの勢いを削ぐように、渡辺優作が序盤から体重を乗せた突きを見舞っていく。だがジマレフも驚異的な粘りを見せ、延長戦ではジマレフのカギ突きなどで渡辺の手が完全に止まる場面も見られた。そこから怒とうの巻き返しを図る渡辺だが、ジマレフも最後まで攻め手を緩めず勝負は判定に。結果、延長戦で形勢を逆転させたジマレフが、最終延長4-0で勝利。師である塚本徳臣支部長に続き世界王者を目指した渡辺だが、準々決勝でまさかの脱落となった。
Cブロックは盤石の組手で勝ち上がってきたエドガー・セシンスキーが、破竹の快進撃を見せる遠田から右外廻し蹴りで技有りを奪取。本戦5-0の快勝でベスト4入りを決めた。
日本人選手が次々と脱落する中、Dブロックは日本人対決に。入来建武と落合光星の一戦は、下段廻し蹴りを要所で決めた入来がペースを掌握。落合も粘りを見せたが、攻めをうまく受け流した入来が本戦5-0で準々決勝を突破した。
【男子準決勝戦】
準決勝第1試合は、ヴァレリー・ディミトロフとアントン・ジマレフという予想外の顔合わせに。序盤は静かな立ち上がりとなったが、試合が進むにつれヴァレリーの重い突きと下段廻し蹴りが的確にヒット。手を出し続けたジマレフだが一歩及ばず、ヴァレリーが本戦5-0で決勝戦へと進出した。
準決勝第2試合は、序盤から入来建武が下段廻し蹴りを突き刺していく。エドガー・セシンスキーも遠い間合いからトリッキーな足技を見せるが、入来の打ち下ろすような下段が要所で決まり最後までペースを譲らず。場内の大歓声に呼応するように下段を打ち続けた入来が、本戦5-0でファイナル進出を引き寄せた。
【男子3位決定戦】
アントン・ジマレフとエドガー・セシンスキーが3位入賞をかけて激突。ノーダメージの状態なら接戦も予想される一戦だが、すでに6戦を消化していることもあり試合は49秒で終了。中段突き、内股蹴りで合わせ一本を奪ったセシンスキーが、堂々の3位入賞を決めた。
【男子決勝戦】
ファイナル進出を決めたのは、入来建武とヴァレリー・ディミトロフ。両者は4年前の第12回大会でも対戦(五回戦)しており、その時はヴァレリーが延長3-0で入来を下している。試合は距離を詰めた状態で、ヴァレリーの下突きと入来の下段廻し蹴りが交錯する展開に。明確な差は見られなかったものの、入来は左に回りながら手応えを感じたという左の下段を連打していく。ヴァレリーも徹底抗戦を試みたが、入来はそれでも下段を連発。結果、副審3名が入来を支持し、本戦3-0で渇望していた世界タイトルを獲得した。男子主将として王座死守を宣言していた入来は、「4年前に負けてからこの世界大会で優勝するということを目標に掲げてやってきました。この夢の舞台で3回目にして優勝することができて、すごくうれしいです」とコメント。戦前は王座流出の危機が叫ばれていたが、終わってみれば日本選手団が組手・型ともに男女ダブル優勝という快挙を成し遂げた。
【女子準々決勝戦】
A&Bブロック:野邑心菜を下し勢いに乗る網川来夢は、この日もブリジタ・グスタイタイテ(リトアニア)を相手に中段突きと得意のヒザ蹴りで真っ向勝負を展開。最終延長にまでもつれこむ接戦となったが、最後まで気持ちを切らさなかった網川が死闘を制し3-0で世界ウエイト制大会重量級王者に土をつけた。全九州大会決勝戦の再戦となった藤原桃萌と漢藍理の一戦は、準々決勝第1試合と同じく一進一退の攻防に。明確な差はつかなかったものの、つねに下突きを出し続けた藤原が最終延長5-0で漢を振り切った。
C&Dブロック:目代結菜がゼロ距離での突きの打ち合いを制し、第53回全日本大会の3位決定戦で敗れている水谷恋に本戦4-0で勝利。これにより組手女子は新極真会のベスト4独占が確定した。冨村日花と鈴木未紘の新世代対決は、予想に反して足を止めての打ち合いに。的確に突きをまとめた鈴木が、本戦4-0で準決勝行きの切符を勝ち取った。
【女子準決勝戦】
準決勝第1試合は、網川来夢と藤原桃萌の同門対決となった。気持ちの入った死闘は最終延長でも決着がつかず、勝負の行方は体重判定に(本戦0-0、延長0-0、最終延長1-0)。網川が63.4㎏、藤原が72.5㎏と両者の間に8㎏以上の差が認められたため、網川が決勝戦へと駒を進めた。
続く第2試合は目代結菜の突きと蹴りのコンビネーションを、鈴木がヒザ蹴りで巧みに分断。本戦は0-0となったが、延長終盤に下段廻し蹴りを連発で突き刺した鈴木が3-0で逃げ切った。
【女子3位決定戦】
藤原桃萌と目代結菜の3位決定戦は、序盤から体重の乗った突きをお互いが打ち合う展開に。時おり藤原が下段廻し蹴りを、目代がヒザ蹴りを放つが均衡は崩れず本戦は1-0のドローに。延長戦も本戦と似た展開となったが、目代が序盤から突きを連打。藤原も最後まで手を出し続けたが、目代が延長4-0で3位入賞を決めた。
【女子決勝戦】
女子決勝戦は最終ゼッケンの鈴木未紘と、リザーブからの出発ながら並みいる強豪を驚異の粘りで退けてきた網川来夢のマッチアップとなった。試合は序盤からゼロ距離での突きの打ち合いに。鈴木が下段廻し蹴りでアクセントをつければ、網川も内股へのヒザ蹴りで呼応する。一進一退の攻防が続き、本戦は鈴木側の1-0でドローとなった。延長戦も掛け値なしの真っ向勝負となったが、鈴木の重い突きで徐々に形勢が変化。鈴木が延長5-0で世界の頂点に立った。試合後のインタビューでは「いろんなことを犠牲にして、たくさんの方々の支えでこうして優勝することができました。私は新極真会に勇気を与えられてきました。今後は私が勇気を与えられるような選手になりたいと思います」と、周囲への感謝と世界平和への思いを口にした。
男子
優 勝 入来建武(東京城南川崎支部)
準優勝 ヴァレリー・ディミトロフ(ブルガリア支部)
第3位 エドガー・セシンスキー(リトアニア支部)
第4位 アントン・ジマレフ(カザフスタン支部)
第5位 岡田侑己(和歌山支部)
第6位 落合光星(和歌山支部)
第7位 遠田竜司(東京江戸川支部)
第8位 渡辺優作(世田谷・杉並支部)
敢闘賞 岡田侑己(和歌山支部)
技能賞 遠田竜司(東京江戸川支部)
女子
優 勝 鈴木未紘(厚木・赤羽支部)
準優勝 網川来夢(福岡支部)
第3位 目代結菜(東京城南川崎支部)
第4位 藤原桃萌(福岡支部)
敢闘賞 網川来夢(福岡支部)
技能賞 漢藍理(佐賀筑後支部)